【ゼロリスク社会の罠】人はなぜリスクを読み違えるのか:災害やテロにおけるバイアスに陥らないための 9つの処方箋

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【 ソーシャル・トラップ 

  • (ある状況下で)ある行動をして「好ましい結果」が生じると、同じ行動を行う回数・確率が増える。
  • (ある状況下で)ある行動をして「好ましくない結果」が生じると、同じ行動を行う回数・確率が減る。

● 短期的に「好ましい結果」が長期的には「好ましくない結果」につながっているのは一種のトラップ

過食や喫煙 : ほんとはやめた方がいい行動が、短期的に「好ましい結果」のせいで、ますます増えてしまうのだから(そこからなかなか抜け出せない)

● 短期的に「好ましくない結果」が長期的には「好ましい結果」につながっているのは一種のトラップ

ダイエットや貯金 : ほんとはやった方がいい行動が、短期的に「好ましくない結果」のせいで、さけられてしまう(だからフェンス、と表現する人もいる)

個人的に「好ましくない結果」が集団的には「好ましい結果」につながっているのは一種の反トラップ(ソーシャル・フェンス)である。

冷淡な傍観者とか、時々は裁判の証言 : 全体のためにはやった方がいい行動が、個人的に「好ましくない結果」のせいで、さけられがちである。なんてのもある。

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【今回参照した書籍】

米国同時多発テロによるリスクを読み間違える傾向

World Trade Center Documentary

 

旅客機のハイジャックと高層ビルへの激突という、衝撃的な出来事を目の当たりにした、米国市民は、当然のように飛行機の利用を避けるようになりました。 代わりに増えたのが、自動車での移動です。しかし実際には、テロリストが毎週1機ずつ飛行機を墜落させたとしても、月一回飛行機を利用する人が事故に遭う確率は、年間13万5000分の1にすぎない。

これはクルマでの年間交通事故の確率6000分の1より、はるかに低い数字です。実際に恐れていたハイジャックはその後1件も起こりませんでした。 推計によれば、飛行機を避けて自動車移動を選んだことによる交通事故者は、テロ後1年の間に約1600人にのぼったということです。テロによる見えない犠牲者というべきでしょう。

参照文献リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

確証バイアス

「嫌いなものは、間違っている(はずだ)!」

人は、好きな物については都合のよい解釈をしたがり、嫌いな物については悪い評価を下したりします。 過度の煙草や酒が体に悪いのは、医学的に見てまったく明らかですが、これを弁護したがる人のなんと多い事でしょうか。

こういう人たちは自説を枉げませんから、往々にして議論を極めて厄介にすると指摘しています。 嫌いな物=間違っていると結びつけてしまいがちであり、公正な判断を下すことは極めて難しいとのことです。

人は、いったん自分の中にひとつの「見解」ができてしまうと、それに対する反証が出てきても「これは例外である」などといって無視したがります。逆に、有利な証拠が出てくるとこれを重視し、より自分の正しさを強く確信する方向に向かうと伝えています。 これを心理学分野で「確証バイアス」と呼ばれる心の歪みである。

正常性バイアス

大きな異変が起こっても「これはそう大したことではない、日常親しんだ状況の延長で読みとめるものだ」と人は思いたがり、リスクを過小に見積もってしまう傾向をいう。

3.11 東北地方太平洋沖地震発生時の新宿高層ビル群(Earthquake in Japan)

 

この時には、首都圏にいる人々は、激しい揺れはしたが、電気・交通マヒ、余震、そして原発事故による放射能漏れ騒ぎなど確認されていくのであるが、地震が起こっていても事態の大きさを把握していないと著者は語っている。

私の場合、阪神淡路を経験していたので、東北での地震は直感的に大変なことになると思っていた。案の定、映像で確認した通り、巨大地震であることが分かり、バイアスにかからずすんだ。

そしてこの首都圏の人々の多くの反応こそが、典型的な正常性バイアスというものだと本書では伝えている。正常性バイアスは、大きな心理的動揺を避けるために、危険な情報を無意識に心から閉め出そうとする本能的働きによるものと見ることができるそうです。

参照文献 【闘う日本 東日本大震災1カ月の全記録 】

こんにゃく入りゼリーともち:バイアスの”ベテラン”と”バージン”格差

こんにゃく入りゼリーによる窒息死亡事故については、当該商品が新規開発されて以降現在までに 22 件の事案が確認された件ですが、これが危険なら、もち(餅)の方がよほど危険ではないかという極めてもっともな指摘としてあちこちであがっていることを取り上げている。

厚生省の調査では、2006年の1年間で77人がもちをのどに詰まられていて死亡しており、大半が高齢者であり、低からぬリスクといえる。食品安全委員会による試算では、もちの事故頻度は、1億回食べた時に6.8~7.6回くらいに窒息を引き起こす計算であり、こんにゃくゼリーは0.16~0.33回程度で、約30倍ほど餅の方が危険という計算になる。

このあたりを表す言葉に”ベテランバイアス”と”バージンバイアス”があります。経験豊富な事柄に関してリスクを低く見積もってしまい、初めての事柄に対してリスクを過大に評価してしまうという傾向があるという。

昔から食べ慣れている餅の危険性はよくても、新しい食品であるこんにゃくゼリーの危険は目についてしまうというわけです。

著者はこれにさらに酒の危険性も取り上げている。科学技術の進歩を忘れたリスクとして、”感染パーティー”や”医療機関に頼らない自然なお産”などの危険性を取り上げている。

こんにゃくゼリー:消費者庁の対応

消費者庁の見解は揺れており、2010年6月には規制の根拠が明確ではない以上、現段階での法規制は困難であるという考えを示し、法規制は行わないという意向を示しているが、翌月にはそれを撤回し「法規制が必要」という見解を示している。しかし、規制を行ったとしても、こんにゃくゼリーの死亡事故が減るだけで、食品全般による窒息死等の死亡事故が減るわけではないため、消費者庁が、国民に対して、食品をよく噛んで食べることなど、食品事故に対する知識の徹底を疎かにしているという批判もある。

関連資料 【こんにゃく入りゼリー等による窒息事故の再発防止に係る周知徹底及び改善要請について】

【”自然なお産”関連】

参照記事 【 “自然なお産”ブームに警鐘を。助産院・自宅分娩の問題点を広く考えて欲しい】
参照記事自然なお産という言葉の裏に潜む大きなリスク
参照記事「自然なお産」が「不自然」である7つの理由

【感染パーティー関連】

参照記事「予防接種しないと何か問題か?」という親の質問
参照記事感染パーティーはNG

アンカリング効果:大震災以後の意外な認知変化

マスコミによっえ大きく報道されることは、リスクを過剰に認識させてしまうケースばかりではなく、逆にリスクを軽く見積もらせる方向に働くこともあると著者は伝えている。 東京大学地震研究所の大木聖子教授の研究によれば、東日本大震災の後、人々の津波に対する警戒感が低くなってしまったという意外な結果が出ていると報告している。

【危険な津波の高さはどのくらいと思うか】

2010年に行われた調査では「10cm~1m」と答えた人が7割以上を占め、この高さなら避難すると答えた人が6割に上りました。 ところが、東日本大震災後に行われた同様の調査では「10cm~1m」の津波が危険と答えた割合は45.7%に低下し、この高さの津波が来たら避難するという人は38.3%へと減少しました。 危険な津波の高さは「5~10m」と答えた人が、3.7%から20.2%へと大幅に増えたと研究結果は伝えている。

著者はこれを心理学でいう”アンカリング効果”ではないかと推測している。ある情報が与えられると、人の認識がそちらに引きずられてしまうことを指す。もしかしたら、私も震災経験者である以上、また同様の震度が来ない限り、被害はたいしたことはないだろうと考えてしまうのが若干怖い。

東日本大震災津波動画 2011/3/11 tsunami

 

今回の震災では、津波被害が大きく報道され「最大波高39m」といった巨大な数字に目が慣れてしまい、我々のリスク評価が狂ってしまったのではないかと著者は指摘している。

私は阪神淡路を経験し、父の店舗は全壊し祖母の住居も無くなりました。家の方も内部で被害に遭い、震災後すぐに付近の見回り(下敷きになって救出を待っている人はいないかと)など積極的に協力しました。

当時は学生でしたが、避難所になった公共施設などに出向き、瓦礫処理などや配給の運搬の支援に参加したことも思い出しました。この映像をみて、人の暖かさ素晴らしい行動力は心動かされるものがあり感動しました。

レインマンの罠:ゼロリスク幻想が、より大きな危険を招き寄せる

ゼロリスクという響きは、極めて甘美な魅力を持つようです。追えば追うほど蜃気楼のように逃げていくゼロリスクを、人は追わずにはいられないようです。

Qantas never crashed

 

このレインマンという映画がありますが、チャーリーがレイモンドを飛行機に乗せようとすると、彼は「この飛行機は何年何月に墜落事故を起こした」と錯乱状態となり、乗ろうとしません。

今度は、クルマで行こうとすると「このハイウェイでは何年何月に大事故が起きた」とまた騒ぎだし、チャーリーは、名も無い一般道路で大陸を横断するはめに陥ります。

彼らは一般道路を行くことでリスクを低減できたわけではなく、一般道路でのロングドライブは、飛行機よりもはるかにハイリスクと論じている。目につくリスクを避けようとして、より大きなリスクを招き寄せてしまっているわけです。

いまの世の中のあちこちで「レインマンの罠」に陥っている人がいると著者は論じている。

参照映画 【レインマン [DVD]

個人情報保護法における問題点

失敗知識データベース:松下電器製石油ファンヒータートラブル

1985年~1992年に製造された松下電器産業株式会社(以下松下電器という)のFF式石油暖房機(図2)によって、福島県のペンションで宿泊していた親子をはじめ、長野県茅野市の個人宅、長野市の美容室、上田市の個人宅でCO中毒による死者、患者が相次いで発生した。バーナーへの給気ホースが劣化による亀裂で、不完全燃焼しCOガスを排出したためである。

松下電器は、テレビ放映4万2千本、チラシ6億9千万枚を配布、回収を呼びかけたが、2007年5月末現在で回収率は70%余りにとどまっている。その費用は249億円に上っている。

この事例では、同社では個人情報保護の為、顧客情報を古いものから破棄してしまっていたことがあり、過剰コンプライアンス保護は、極めて高くついたと指摘している。

賢者は統計に学ぶ

左利きの寿命

統計によれば、高年齢層ほど左利きの割合が減少する。1991年に発表された論文は、この統計は左利きの人は右利きの人に比べて9年も短命であることを示すものであると主張し、その原因は左利きの人は右利き中心の世界に適しておらず、この世界で遭遇する「苦難」のために事故で死亡することが多いためであろうと示唆している。しかしその後の多くの研究により、右利きの人に比べて左利きの人が短命であるという証拠は全くないことが明らかになっている。

関連記事右利きに知ってほしい、左利きが苦労している17のこと

筆者自身も左利きであるが、少し前にとっくに否定された左利き短命説を紹介している医師がいたが「面白いけど不正確な学説」と「面白いけど正しい学説」では、前者が生き残ってしまうのがこの世の中であると著者は指摘している。著者と同じく面白いものしか残らないんだなと観ていて思った。

関連記事 ホンマでっか!?TV 左利きの寿命:おおたわ史絵氏「有意差がない」発言のトリック

【短命説を否定している学説】

【1】Harris, LJ (1993). “Do left-handers die sooner than right-handers? Commentary on Coren and Halpern’s (1991) “Left-handedness: a marker for decreased survival fitness””. Psychological Bulletin 114 (2): 203–234. doi:10.1037/0033-2909.114.2.203. PMID 8416031.
【2】Person PG, Allebeck P (1994). “Do left-handers have increased mortality?”. Epidemiology 5 (3): 337–340. doi:10.1097/00001648-199405000-00013. PMID 8038249.
【3】Hicks RA, Johnson C, Cuevas T, Deharo D, Bautista J (1994). “Do right-handers live longer? An updated assessment of baseball player data”. Perceptual And Motor Skills 73 (3 Pt 2): 1243–1247. PMID 7936949. 【4】Westergaard GC, Lussier ID (1999). “Left-handedness and longevity in primates”. The International Journal Of Neuroscience 99 (1-4): 79–87. PMID 10495198.
【5】Martin WL, Freitas MB (2002). “Mean mortality among Brazilian left- and right-handers: modification or selective elimination?”. LATERALITY 7 (1): 31–44. PMID 15513186

データに騙される性質

人は、因果関係を見出すようにできている生き物です。この性質のおかげで、我々は様々な発見をし、知恵を蓄積してきました。 時にこの性質は、あらぬもの同士にまで因果関係を見つけ出してしまいます。

The Barnum Effect

 

バーナム効果】 誰にでも該当するような曖昧で一般的な性格をあらわす記述を、自分だけに当てはまる正確なものだと捉えてしまう心理学の現象。

星の配置、手のひらのしわ、血液型、顔つき、名前の画数、家具の配置、果ては印鑑のデザインに至るまで、我々は多くのものを自信自身の運命と関連づけてきました。 このような効果をバーナム効果と言いますが、占いがいくら外れても廃れることはありません。これと同じで、一度心の中で関連付けたものを剥がし取るのは大変難しいと本書は指摘している。統計による嘘は後が絶ちませんが、これを見抜く目、データを疑う精神を持っていれば、手も無く騙されてしまうことでしょう。

まとめ

目の前に提示された情報を鵜呑みにせず、自分の頭で考え、疑うのは大変に重要なことです。しかし、この自分の頭で考えることは、時に大きな罠ともなります。

前述のように、誰しもバイアスは持っていますし、偏った主観で物事を見続けることほど、危険なことは無く、すべて歪んで映ることも多々あり、妄信する危険性を本書では様々なケースで伝えています。

非常に面白くまとまった内容でしたので、一気に読めて大変有意義な読書でした。偏った情報に遭遇した場合、各所の内容を吟味し情報に翻弄されない豊かな生活を送って頂きたいと思います。

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参照画像 【World Amazing Facts Interesting Facts Weird Facts:Earthquake at Kobe】