【 人間の暗闇~ 国家社会主義ドイツ労働者党 】 シュタングルとシンドラー ホロコーストの時代で生き 普通の人が どうやって怪物や英雄に変貌するか

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【参照文献】 人間の暗闇―ナチ絶滅収容所長との対話

【 内容紹介:本書説明より 】

「ユダヤ人最終解決」を担った男はどのような人間だったのか。人間は生まれながらにして悪を為す存在なのか。トレブリンカ収容所長シュタングルとの息詰まる対話。「アウシュヴィッツ以後」を考えるための必読の書。

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マルティン・ニーメラーの詩

彼らが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった、
私は共産主義者ではなかったから。

社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった、
私は社会民主主義ではなかったから。

彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった、
私は労働組合員ではなかったから。

彼らがユダヤ人たちを連れて行ったとき、私は声をあげなかった、
私はユダヤ人などではなかったから。

そして、彼らが私を攻撃したとき、私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった。

【 彼らが最初共産主義者を攻撃したとき 】

『 彼らが最初共産主義者を攻撃したとき 』 は、ドイツのルター派牧師であり反ナチス行動で知られるマルティン・ニーメラーによる詩。たくさんのバージョンが存在するが、その内容は基本的には、迫害ターゲットグループを徐々に拡大していくナチ党に恐怖を感じつつも、「自分には関係ない」と見て見ぬふりをしていたら、自分がいざそのターゲットとなったときには、社会には声を上げることができる人は誰もいなくなっていた、というもの。

自分が属するプロテスタント教会に手が伸びる前に次々と迫害されるターゲットグループとしては、共産主義者、社会主義者(社会民主主義者)、労働組合員、ユダヤ人、障害者、カトリック教会、などがあげられる。

強いメッセージ性を持つため、政治への無関心層へ政治への呼びかけとして世界の多くの場所で引用されてきた。

個人が関わったホロコーストとはなんだったのか

ドイツによるホロコースト

1930年代から1940年代にかけてのナチス政権下のドイツ国内及び第二次世界大戦中ドイツに占領されたヨーロッパの国々において、ユダヤ系市民は差別迫害を受けた。第二次世界大戦中のユダヤ人の歴史について、戦後、ニュルンベルク裁判は、「ドイツはユダヤ系市民をただ、ユダヤ人であるというだけの理由で絶滅しようと計画した」と事実認定し、これを「人道に対する罪」と見なした。更に、同裁判とそれに続いて行なわれた西ドイツでの裁判その他において、そうした民族絶滅計画の手段として、ドイツは収容所に処刑用ガス室を作り、一酸化炭素や青酸ガスによってユダヤ人の大量殺人を行なった、等の事実認定がなされた。

組織計画的殺戮

組織による個人の無責任と組織によって効率的殺人が行われた一連の流れで、国家社会主義ドイツ労働者党が行った組織的迫害を見ているが、今回読んだ人間の暗闇―ナチ絶滅収容所長との対話 】 について考えたい。

本書は読者に対して、登場する個人的な立場や性格が彼らの社会的職業とは別に、いかに政治的影響を被るものなのか、またその結果、市民的な勇気や道徳感がいかに損なわれていくか、そして最終的に人類全体を巻き込むような悲劇的運命をもたらすのか、という点に注目してほしいという。

権力と金が目的だった絶滅収容所所長

人間の心があるところ、そこには、いつも光と闇の領域が拡がっている。

トマス・カーライル

フランツ・シュタングル

親衛隊将校、ソビブルとトレブリンカに存在した絶滅収容所の所長だった人物。最終階級は親衛隊大尉。T-4 安楽死プログラムの責任者、ソビブル絶滅収容所所長、トレブリンカ絶滅収容所所長を経て戦後は逃亡する。ブラジルにて逮捕されたのち、西ドイツ政府に引き渡され、約 90万人を殺害した容疑で裁判にかけられた。これらの殺害を認めたが「私の良心は明白である。私は単に自分の義務を果たしただけだった。」有罪判決が下り、終身刑を宣告された。1971年6月28日、デュセルドルフ刑務所内にて心臓麻痺で死亡した。

Polowania na nazistów. Franz Stangl i Gustaw Wagner.

シュタングルの仕事観

彼の仕事観について非常に詳細に記録されているが、彼は犯罪者を発見することに関心を抱いていたと語り、それが誰であるかは問題ではないと無責任な考えが前提にある。

彼の言う職業倫理とは、秩序を保つことが優先された。そのことのみに仕事を行い、それが満足し楽しかったと語っている。大量殺人についても、慣れていったと語り、数か月で慣れたといい、システムの中に絡み取られたようだ。

最終的には、もはや人間を取り扱っているなどという考えも無くなったという。
犠牲者は”物体”と考え、人を物としてしか考えなかったと語る。

 

トレブリンカで死の収容所を視察したその日から、徐々に始まっていたんじゃないか。屍体でいっぱいの溝の縁に立っていた姿を思い出す。それは人間ではなかった。単なる物体以外の何物でもなかった。ただの肉片の塊に過ぎなかった。無意識のうちに、少しずつ物体だと見なし始めた気がする。私には単なる大量の屍体の塊しか映らかなった。個々の屍体ではなく、大量の塊だったんだ。彼らは裸で一塊になって、鞭で追い立てられ走っていた。

 

そういう状況を変えようとする気持ちは起こりませんでしたか? 裸にして鞭で追い立てられ、最後には残虐な結末が待っているという状況を変えることはできたでしょう? と インタビュアーは尋ねた。

馬鹿なことを言わないでくれ! あれは一つのシステムだったんだ。ヴィルトが考案したものだ。それでスムーズに行っていたんだから、変更することは不可能だった。

ここでも、組織的責任転嫁と個人の無責任を示す興味深い言動だ。人への関心はまるでなく、接触のあった特定の囚人における彼ら彼女らのその後どうなったかについて追及すると決まって 「 知らない 」 という。著者はシュタングルの道徳的に荒廃した人格部分を証明する数多くの証言を本書では引き出している。私も読んでいて荒廃していると感じた。これらの組織的犯罪に関わった人々に焦点を当てた場合、人間の道徳的荒廃が挙げられる。組織が命令をしたから従っただけだと。私は無力であるから、従うのが当然であると開き直る人々も存在する。

集団思考などの記事もいくつか書いているので、それらも併せて参照していただきたい。

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システムに翻弄されない 高い道徳的な決断とは

オスカーシンドラー:ユダヤ人強制労働者の救出

ズデーテン・ドイツ人の実業家。強制収容所に収容されていたユダヤ人のうち、自身の工場で雇用していた1,200人を虐殺から救った。国家社会主義ドイツ労働者党に志願して入党。ポーランド侵攻に合わせ、戦争での一儲けを狙い、ポーランドのクラクフにやってきた。没収前はユダヤ人の所有になっていたホーロー容器工場を買い取る。ユダヤ系ポーランド人会計士イツァーク・シュテルンの助言を受けながら、闇商売で資産を拡大していく。

ナチス党政権への抵抗は、イデオロギー的な理由からではない。無力なユダヤ人住民たちに対する扱い方に異を唱えたのである。彼の経済的な関心は、出来るだけ多くのユダヤ人を救済したいという願望の前に次第に後退していった。最後には、全財産をこの目的のために投げ出すだけでなく、自分の命まで賭けようとしたのである。

Schindler’s List – Ending

 

オスカーシンドラーにおける立場は、商売をする際に人々への絆が生まれたのだろうと考える。初期のシンドラーは、ユダヤ人の人々を金儲けの労働力として考えなかったのだろう。

シンドラーは、全体主義の中で、同じような人々が多く殺されていく現場を見て、人としての正気さを取り戻したのだろう。正気を取り戻しても、実際に行動に移せたことがのちに正義の人として救済される。

戦後を見据えたポーズだったとしても、また本心から良心に従い救出を行ったにせよ、金の目的で始めた彼にとって、財産のほとんどを差出し賄賂を贈ることによって、実際に多くの人々を救った事実は揺るがない。

本書人間の暗闇―ナチ絶滅収容所長との対話 】 では、人間がそれまでに被った影響をコントロールして、さらにいっそう高い道徳的な決断をするためには、何が必要であるのか、未だに分からないと著者は書いている。

すべての人間は同じではなく、ひとりひとり絶対的に違っているからこそ個人としての存在価値があるからだとし、このような個別性は、偶然の生まれつきのみに基づいているといるとも思えないという。

彼らが生後、どの程度まで自由に個性を伸ばせるかどうかにも決まり、環境にも大きく影響するだろう。

フィリップ・ジンバルド 氏が TED 【 Technology Entertainment Design 】 で、普通の人がどうやって怪物や英雄に変貌するかを興味深く考察しているが、その通りであろう。

普通の人が どうやって怪物や英雄に変貌するか

 

フィリップ・ジンバルドは善良な人が悪人に変貌することは、いかに簡単かを説明し理解しています。この講演で彼は、アブグレイブ事件の非公開写真やそこからの洞察を紹介します。それから、その対極について語ります:英雄になるのはいかに簡単かということ、どうすれば困難に際して立ち上がれるのかということを考えます。

【 アブグレイブ刑務所における捕虜虐待 

2004年にアブグレイブ刑務所で発覚したイラク戦争における大規模な虐待事件である。米国国防省は、17人の軍人及び職員を解任した。2004年5月から2005年9月までの間に、7人の軍人が軍法会議で有罪となった。

【 フィリップ・ジンバルド 

アメリカ合衆国の心理学者であり、スタンフォード大学の名誉教授である。スタンフォード監獄実験の責任者として知られている。内気な人の研究『シャイネス』、善悪の彼岸を追及した『ルシファー効果』(未翻訳)などの著作も有名。

腐った樽がつくられた時に人は変わる

本書人間の暗闇―ナチ絶滅収容所長との対話 】 では社会の道徳というものは、一人ひとりの責任ある決断と基本的な正邪の選択にかかっているという。そうした能力の起源は謎に包まれているとし、現在もなぜ生まれてくるのかと様々な国や研究機関で研究が行われている。

人間としての核心をつく問題であるために、これらの学術体系と実践への応用をもって再発防止に努めてもらいたい。

近年においては、米軍におけるイラク戦争における大規模な虐待事件も起こっている。けっして昔話ではなく、いまでも同じような事が多くの場所で行われている。

フィリップ・ジンバルド 氏は、心理面からの考察では、三つの要因があるという。主流は属性帰属性によるもの、すなわち人の腐った林檎の内側を見る方法を説いている。これはずべて社会科学の基盤であり、宗教の基盤そして戦争の基盤だという。

スタンフォード監獄実験 】 アメリカのスタンフォード大学で行われた、心理学の実験である。心理学研究史の観点からは、ミルグラム実験(アイヒマン実験)のバリエーションとも考えられている。

The Stanford Prison Experiment

 

個人がとりまく腐った樽は何なのかと追及していくと、権力はシステムの中にあり、システムが個人を堕落する状況を作り上げるという。そのシステムとは法や政治、経済や文化的背景であり、権力はシステムの中で腐った樽を作ってしまうのだと。

これはその通りだろうと考える。もし人を変えたければ、状況を変化させることだと指摘している。もし状況を変化させることが出来れば、システム上の権力は何処にあるかを知るべきと説いている。彼ら戦犯を多く調べていくと、個人に責任の範囲のみ罪を認める内容と、組織の歯車でその義務を果たしただけだと言い訳をする。

腐った樽に気が付かず、また薄々気づきながらも、邪な目的の為に、組織犯罪に加担することになる。
一方シュタングルもシンドラーも目的は金が大きな原動力であり、自らの財産をつくることが目的であった。

一方は警察組織で、一方は商売人として、ホロコーストに関わったのだが、未来を見据えどう行動するかで、敗戦後の評価は大きく変わるのに両人とも気づきながらも、高い道徳的な決断をしたシンドラーもいれば、システムの中で非道徳的決断しかできなかったシュタングルのような人間もつくってしまうのだ。

善悪を選び取る力は、どのような人間にも備わっている。 オリゲネス

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