【神話と寓話】 売春宿の門番:スウェーデンにある小さな工具店さんが実践した心温まるプロモーション
売春宿で門番をしている男がいた。待遇もよくないし、あまり人に誇れる仕事でもなく、決して満足していなかったが、読み書きを学んだこともなく、これといった取り柄もなかった。
仕事があるのも、祖父から父親までが同じ売春宿で番人をしていたからだった。何十年ものあいだ、その売春宿は親から子へと受け継がれていた。そしてしかたなく、その仕事を続けていた。
ある日、売春宿の主人が死に、後を継いだ息子は、経営が思わしくないことを知り、早速経営の改革に乗り出した。
門番の男を呼び出してこう告げた。 『今日から、報告書を出してもらいます。』
『ご希望にお答えしたいのは山々ですが・・・私は・・・字が読めません』
『なんだって?じゃあ、すまないが、辞めてもらうしかないな』
『しかし私を首にするなどと言わないでください。父や、祖父のように・・・』 後継ぎは男の言葉を遮った。
『お気持ちは分かります。しかし私にできることは何もありません。ほんとうに申し訳ありません。お元気で。』
突然仕事を失い、男は頭を抱えた。これからどうやって食べていこうか・・ 考えた挙句にようやく思いついたのは、家具の修理だった。
男は売春宿のベッドや家具の足が壊れたときに、金づちと釘で簡単ながら修理をしていたのだ。
それを新しい仕事にしようと心に決めると男は金物屋が無いことに気づき、自分の村を出て、2日がかりで離れた町に行き、工具を揃えた。家に入ってまだブーツも脱ぎ終わらないうちに、誰かが家の扉を叩いた。
それは隣に住んでいる若い男がやってきた。
『金づちをお持ちでじゃありませんか?あれば貸してもらえないかと思いまして』
『ちょうど買ってきたところですが、商売道具だから貸すわけにはいかないんです』
『では、借り賃をお支払します。それならどうですか?』
『分かりました。』 男は金づちを貸すことにした。
修理の仕事なんて、いつもあるわけじゃないし、もしかしたら当分ありつけるかもしれない。
いま工具を貸してお金がもらえるなら、そのほうがいい・・。そう考えたのだ。
ところが村には金物屋がないだけに、その工具貸しの仕事が重宝され、いい稼ぎになった。
男のうわさはその辺りに広まりはじめ、近所の人たちはもう工具を買いに遠出することはなくなった。
そのうち工具の販売もはじめ、それも大繁盛して、みるみるうちに男は大金持ちになった。
しばらくして富豪となった彼は、町に大金を寄付して学校をいくつも作った。
開校式と創設者を称える大晩餐会が開かれた。ある開校式で彼はサインを求められた。
彼はいまだに字が書けなかったので、こう言った。 『サインができればどれほどよいでしょう。しかし私は字が書けません。文盲なのです。』
『あなたが?』サインを求めた人は信じられないといった顔でこう言った。
『あなたのような一代で事業を大成功に導いた立派な人が読み書きもできないなんて、もし読み書きができたらどんなことが成し遂げられたのでしょうか?』
『それにはお答えできます。』男は静かに答えた。
『もし私が字を知っていたなら・・・・売春宿の門番です』と。
【 スウェーデンにある小さな工具店さんが実践した秀逸なプロモーション。】
ToolPool
【 今回参考にした書籍です。】
参照文献 【ユダヤ教の典範「タルムード」の寓話】
参照記事 【Malmö Hardware Store: ToolPool | Ads of the World™】
参照画像 【Thoughts about hope and sense Inspired by an old German daily】
参照画像 【Tool Shop】