【M&Aと市場参入:経営者の意思決定】自己中心的な行動や自信過剰に陥らないための7つの提言

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【自信過剰バイアス】

自信過剰は、帰属の誤りにも関係してくる。個人差もあるが、人は一般に、物事の成功は自分の能力に帰属し、失敗は外部要因に帰属する傾向がある。 経営者の例で言うと、事業が成功したときには、自分の手柄に、失敗した時には部下の無能さや予測不能な環境変化などに帰属しがちである。

また人には、自分の関係した出来事について、その原因を自分に求めがちなタイプと、自分のあずかり知らない外部に求めがちなタイプがある。 自己に帰属するタイプのトップエグゼクティブは、プロダクトマーケットのイノベーションを追求し、大きなリスクを取り、競合他社に追随するのではなく先導する傾向が比較的高いようである。【Miller et al,1982

ビジネスに関して客観的で合理的な将来の予測を立てることは本質的に不可能である。主要な見積もりはすべて主観によるしかないが、重要なのは、人間の主観に影響するバイアスを知ることであり、出来る限り、盲目的な自信過剰傾向に走る傾向を抑え、注意する必要があるだろう。

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【コントロールの幻想と自己奉仕バイアス】

自己奉仕バイアス】とは、もともと人間は、自分の成功の原因は自己の能力の高さに帰属させ、失敗の原因は環境の変化などの外的要因に帰属させる傾向がある。他社については逆であって、成功は環境要因に、失敗は能力要因に帰属させる傾向がある。このようなバイアスは自己奉仕バイアスと呼ばれる。【Miller and Ross 1975; Miller and Riordan 1988

このようなバイアスにかかった経営者などは、偶然や従業員の絶え間ぬ努力やマネジメントでの成功体験などを、自己の能力として過信し、意思決定が甘くなり、過度に選好的になる傾向があるだろう。

【ひとり勝ち市場】

ひとり勝ち市場とは、多数の企業が参入する成長率の高い市場やスポーツやショービジネスの限られたトップ人のみに富と名声に集中する市場である。ひとり勝ち市場への過度な参入には、確率の誤認知も介在していると考えられる。 多くの人がトップに集中するひとり勝ち市場であることをうまく認識できず、自分の成功確率を過大に見積った結果として、多くが参入する現象が起こっているのである。【Frank and Cook,1995

人間は、あまりに小さい確率をうまく実感することが苦手なのである。企業経営者による市場参入の意思決定の場合、新規企業の成功確率は俗に「千三つ」といわれるほど低いのだが、新しく事業を起こした2294人に対する調査によると、81%が事前の成功確率を7割以上と見積もっていた。

しかも、10割と見積もっていた者が33%もいたのである。つまり人は平均的に自分の成功確率を高く見積もりすぎる傾向がある。これは確率の誤認知が起きている可能性がある。【Cooper et al.1988

【社会的証明と横並び行動】

「これは多くの他者が取っている行動である。ゆえに正しい。」論法は社会的証明の原理と呼ばれる。

社会的証明

自らの意見が曖昧な時は、人は他の人々の行動に目を向ける。 私達は、日常のあらゆる場面で、他人の行動に影響を受けています。例えば、広い駐車場で出口が分からないときには、他の車が進んでいる方に向かってみます。どのパソコンを買えばよいか分からない時は、人気ランキングで上位のパソコンを購入します。

高速道路でどのくらいのスピードを出すかは、他の車がどのくらいのスピードで走っているかによって影響を受けます。初めて行くレストランではどのように振舞うべきか?というのは、他の客の様子をうかがいながら決めます。

あなたにも心当たりがあるのではないのでしょうか?【営業マンのための営業マニュアル】 自信がない経営者ほど、同業他社に追随し模倣する傾向が高い。経営者の横並び行動は、あまり尊敬される意思決定様式ではないかもしれないが、社会的証明に従うことには不確実性の低減効果があり、それなりに合理的な意思決定である。

また自社の評判と労働市場での価値を守る為、他の経営者と違った行動を取って失敗した場合よりも、同じ行動を取って失敗した場合の方が評判が低下しにくいことも横並びに走る要因である。【Scharfstein and Stein,1990

【プロスペクト理論】

例えば、以下の二つの質問について考えてみよう。

質問1:あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたものとする。

  1. 選択肢A:100万円が無条件で手に入る。
  2. 選択肢B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。

質問2:あなたは200万円の負債を抱えているものとする。そのとき、同様に以下の二つの選択肢が提示されたものとする。

  1. 選択肢A:無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円となる。
  2. 選択肢B:コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債総額は変わらない。

質問1 は、どちらの選択肢も手に入る金額の期待値は100万円と同額である。にもかかわらず、一般的には、堅実性の高い「選択肢A」を選ぶ人の方が圧倒的に多いとされている。 質問2 も両者の期待値は-100万円と同額である。安易に考えれば、質問1で「選択肢A」を選んだ人ならば、質問2でも堅実的な「選択肢A」を選ぶだろうと推測される。

しかし、質問1 で「選択肢A」を選んだほぼすべての者が、質問2ではギャンブル性の高い「選択肢B」を選ぶことが実証されている。 この一連の結果が意味することは、人間は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先し、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向があるということである。

質問1 の場合は、「50%の確率で何も手に入らない」というリスクを回避し、「100%の確率で確実に100万円を手に入れよう」としていると考えられる。また、質問2 の場合は、「100%の確率で確実に100万円を支払う」という損失を回避し、「50%の確率で支払いを免除されよう」としていると考えられる。 【プロスペクト理論:wiki】

【うぬぼれ】

買収先企業のほとんどは相当のプレミアムが乗っているのが一般的であるが、被買収先企業の株主は利益を手にするのに、買収企業の株主はあまり儲かっていないという皮肉な結果になることが多い。経営者のうぬぼれ仮説が提唱されたぐらいだ。【Roll,1986】 実証データーからは、買収元企業が得ている利益は、平均的にはあったとしても微々たるものであって、経営者は自己または自社の能力を過信し、うぬぼれている可能性が高い。

買収前の収益の見積は、結果と比較すると甘目であることを見出した研究もある。【Houston and Ryugaert,1994

【勝者の呪い】

236969898930 参照画像【Auction bids and the winner’s curse】

勝者の呪いとは、オークションなどに参加をしている場合、勝者というのは市場の評価額よりも高い値段で落札することが多く、結果的には勝者である人間が損をするという現象を引き起こす現象のことを言う。 オークションが開かれる場合に、オークションに出される品物の価値というものは、その市場の中でほぼ定着をした価値が設定されている場合が多い。

このことを「共通価値のオークション」と呼ぶことがある。共通価値のオークションとして開催されることが多い代表例として、不動産の競売や国債の入札などがあげられる。 オークションに参加するものは、共通価値と呼ばれるマーケット内で定着している常識的に妥当な価格についての情報を得ることができない場合がある。

よってオークションに参加をする前に、オークションに出されている商品の価格について推定をする必要が出てくる。 しかもオークションという形態をとっているため、入札をすることが第一義的となり、また他者と競ることによって、予定よりも高額な値段につりあがることも往々にしてある。

このため、結果的には、入札をした人間は市場価値よりも高い値段で購入する可能性が極めて高くなり、勝者の呪いがおきやすくなるというわけである。 証券用語辞典勝者の呪い

【帝国の建設】

経営者の動機として挙げられるバイアスは、自己の利益の最大化のみをめざしている意思決定が見えてくる。株主の利益と経営者の利益は一致しているとは限らないが、中小企業の場合、最大株主=経営者という図式が成り立つ場合、このバイアスは非常に多く散見させるだろう。

経済学でいうエージェント問題でもある。 利己的動機にひとつである、帝国の建設【Jensen,1986】があり、企業の動機のひとつが私的帝国の建設を挙げていた。 ヒエラルキーの頂点に登り詰めると、これ以上上に行くことが出来なくなった場合、M&Aによって業界内順位を上げる場合や、社会的ステータス、自分の給料や組織拡大欲、支配欲も満たされる。

ベンチャーキャピタルから資金供給されている経営者もまた、数字上の目標を達成するため、または上場を目標に掲げながら、自社のビジネスモデルや収益性の弱さから、周辺企業や上場企業自体を買収してしまうケースもまた帝国の建設を夢見ている。 ある程度の周辺企業を揃え、子飼いの役員を経営陣として送り込み、グループでの反対勢力を一掃して、個人に力が集中することが目的であったりする。

またしばしば行われるのが、こうした利己的動機を株価に連動させる報酬体系を組み込む動きがあった場合、それはリスク拡大に繋がる。 これは1719社のサンプルを分析した研究の結果、自己の報酬が自社株の株価に関連付けられている度合が高いほど、リスクの大きな買収に積極的に打って出る傾向が高まったと報告される。【Datta et al,2002

【塹壕理論】

従業員自体が解雇を恐れ、他の代替従業員に何がどうなっているのかわからなくすることがあるが、それは経営側に解雇や意に反した異動に対する防衛策を取っている人々はあらゆる組織で散見される。 解雇を恐れていることは、経営者も変わらない。

経営者もまた、なるべく自分抜きでは企業が立ち行かない状況を作る出そうとするであろう。経営者の地位を安泰とする為、ひとたび巨額のM&Aプロジェクトを開始してしまえば、進行中は簡単に経営者をすげ替えられるものではない。業績が悪く自分の首筋が寒い経営者ほど、無謀かつ無茶な投資に走る傾向があると予想される。

経営者などが、株主の利益を犠牲にして、自分自身の安全を確保しようとするこのような行動は、塹壕固めと呼ばれる。【Shleifer and Vishny,1989】 歴史的に見ても、この塹壕仮説が見えてくるのが、政治家の意思決定である。一国の指導者は、自分の支持率が低いほど、戦争開始の意思決定を下す可能性が高い。戦争中は現職の再選の可能性が高まると考えられるからだ。

【自己中心的な行動や自信過剰に陥らないための7つの提言】

  1. 自分にも自信過剰になる傾向があることを自覚する。
  2. 専門外の問題を検討するときは特に自信過剰にならないように気をつける。
  3. 自分の予想や答えが間違っているかもしれない理由を探す。
  4. あらゆる認識にはバイアスがかかっていることを自覚する。
  5. 自分の期待がどのように認識にバイアスをかける可能性があるかを見極める。
  6. 中立的な部外者はその状況をどう違った見方をする可能性があるかを考える。
  7. 人間につきものの、原因を都合よく解釈する傾向に疑問を持つ。

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